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YELL

VOL.29

そろばん三姉妹…鉄道の道へ

松本 真依・莉佳・紗季  さん

左から莉佳氏・真依氏・紗季氏

<長女 真依氏>
全珠連検定 珠算十段・暗算十段
2010~2011年 全商全国大会にて個人3等,
応用2等,伝票3等入賞

<次女 莉佳氏>
全珠連検定 珠算十段・暗算十段
2015~2016年 全商全国大会にて伝票3等,
読上暗算3等入賞

<三女 紗季氏>
全珠連検定 珠算九段・暗算十段
2018~2019年 全商全国大会にて個人3等,
伝票3等入賞

 みなさん,こんにちは。私は愛知県在住の松本真依と申します。

 この度は「YELL」への寄稿のお話をいただき,誠にありがとうございます。

 僭越ながら三姉妹を代表し「そろばんOGからのメッセージ」を記したいと思います。

 私たち三姉妹は,高校時代に特技の珠算で全国大会を目指すため,商業科や珠算部のある県内の高校へ進みました。高校生活3年間は,そろばん,電卓,簿記,情報処理,プログラミングなどの資格取得に励み,現在は東海旅客鉄道株式会社に勤務し,在来線の運転士,車掌,駅窓口,改札をそれぞれ担当しております。

 子供の頃,珠算をしっかりと学んだおかげで,社会人の今,計算力,処理能力,集中力,忍耐力などいろいろな力を仕事で活かすことができています。

 この場をお借りして,そろばんのよさを伝えることができましたら幸いです。

そろばんとの出会い

 私は小学2年生からそろばんを始めました。はじめのうちは簡単で,楽しくそろばんを習っていたのですが,学校の算数より内容が難しくなると,涙が出て練習が嫌になるときもありました。そんなときに私は暗算を教わりました。暗算ができるようになると不思議とわり算の答えがスラスラわかるようになり,答えを決めて置いたときにちょうどよい値になって,算数や筆算の勉強にも役立ちました。

学校で出された宿題もすぐに片付けることができるようになりました。順調にそろばん技能が上達してくると,母は珠算競技大会を見学させてくれました。表彰台の壇上にあるトロフィーや楯を見て「私もトロフィーが欲しいからもっとがんばりたい。大会に出てみたい」と一気にやる気が増したのを覚えています。

 小学4年生で珠算弐段,暗算四段に合格し,この頃から母が珠算の先生になったり,珠算大会に参加したり,私たち家族の生活は大きく変化していきました。当時の私は苦手な種目の記録を伸ばし,より高い段位を取得するために見取算や伝票算を暗算で計算するようにしていました。妹たちも私と一緒にそろばんを学び,練習することで次々とできるようになり昇段していきました。

 平成17年夏,名古屋でそろばんの催し物がありました。当時の私は小学5年,妹たちは小学1年と4歳。そろばん日本一の選手が計算をして答えを書くところを見て,速さ,桁の多さ,暗算のすごさを目の当たりにします。「いつか私も十段を取りたい」と憧れるようになりました。

十段の壁

 練習では十段の点数がとれるのに,いつも本番の検定では不合格でした。数字がきれいに書けなかったり,コンマの位置が悪かったり,数字をきれいに書くことを意識しすぎて時間が足りなくなったり。もう合格なんてできないかもしれないと私自身,弱気になっている時期がありました。母は検定で不合格になっても「そのうち十段に受かるから大丈夫」と私たちに何回もチャンスを与えてくれました。中学2年の夏には,そろばん訪米使節団の一員としてアメリカの子供たちにそろばんを教えたり,現地の珠算大会に参加したり,交流体験をさせてくれました。私と同じように十段にチャレンジしている仲間との出会いもあり,とても貴重な場でした。今でも全珠連の先生方や両親にとても感謝をしています。

 中学2年の冬,数学で確率の勉強をしていたら,母から「確率を勉強するなら,十段の合格確率表を一緒に作成してみようか」と提案をされました。苦手だった見取暗算の問題を毎日計測し,練習枚数と点数を記録していきました。1日10枚以上練習すると翌日の合格確率は徐々に10パーセント程度上がっていくのに,1日9枚以下にしてしまうと合格確率は20パーセント程度下がっていました。個人差があるかと思いますが,グラフにすると私の合格確率の法則はわかりやすく結果が表れて,今日の練習は明日の自分のためだと気づかされました。検定前日まで練習し続けた結果,前日の私の合格確率はなんと78パーセントにまでになり,なんだかワクワクして検定が楽しみで仕方がありませんでした。そして迎えた検定本番,見取暗算は満点で十段に合格することができました。このとき「練習は嘘をつかない」と強く実感しました。合格のカギは「真剣さ」&「練習量」だと知ることになります。

そろばんで学んだ経験が社会に出て,どのように活かされているか

 そろばんでは,年齢の異なる生徒が一緒に学びます。大会などでも小学生から大人までさまざまな年齢の選手がいます。社会に出て仕事をしていると窓口にくるお客様はさまざまです。

 そんなときに,いろいろな人に合わせられる「コミュニケーション能力」もそろばんを通して自然と身につけていたものかもしれないと感じます。お客様のために鉄道人として誇りを感じ,地域のためにという使命感を持って,日々親切な応対を心がけ仕事をしています。

 全珠連のそろばんで学ぶ「応用計算」には,時間の計算があります。私たちの仕事でも決められた時間(秒単位)で電車を動かしたり,目的地にはどの電車が早く到着するか,乗り換えの時間を計算したり考えたりするときに,とても役立っています。

 また,「伝票算」も仕事で活かされています。帳票の合計をするときには,すぐ正しい答えを導き出せます。窓口で大量の切符を販売するときも,計算が速い方がお客様の待ち時間が少なくなるので,珠算でしっかりと伝票を計算する体験ができ,よかったと思います。通常なら機械で出した金額と電卓での再計算ですが,私たちの頭の中では,電卓に加え暗算でも検算ができます。紙をめくりながら計算をすることをたくさん経験しておいてよかったと感じています。

 機械からおつりが出てくるときも,先に頭の中にそろばんの形がイメージでき金額がわかっています。窓口や車内で精算するときも「暗算」はかなり重宝します。

そろばんでどんな可能性がひろがるのか

 私たち三姉妹は,中学生の頃,吹奏楽部に所属していました。部活の時間が多くなると,そろばんの練習時間が少なくなり,検定に合格できない期間が続きました。私たちは,それでもそろばんを辞めませんでした。高校生になったら「珠算の全国大会で入賞する」という夢があったからです。母の高校時代の夢「全国大会で入賞」が叶わなかった話を小さい頃から聞いていたため「母の代わりに私たち3人が夢 を叶えてあげよう」という思いが強かったのです。そして3人揃って全国大会で入賞を果たすことができました。    そろばんと吹奏楽の両立は大変でしたが,どちらも投げ出さなかったからこそ,今「仕事」にやりがいを感じ,「音楽」を楽しめています。

 そろばんと楽器演奏で身につく力は,検定,大会,演奏会など本番で成功させる「集中力」,できるまで粘り強く何度も「チャレンジする力」,あきらめずにやり遂げる「忍耐力」です。どれも大人になったときに必要になる力です。

 現在は「計算力」を鉄道業務で,会社の音楽クラブでは身につけた「さまざまな力」を活かし,三姉妹揃ってクラリネット,ドラム,歌,コントラバスなどを担当し,全国各地での演奏活動,野球応援にも参加しています。

 鉄道の仕事は,朝早くから,夜遅くまでの夜勤が多く不定期で大変ですが,そろばんで培った多くの力を活かして,これからも更にがんばっていこうと思います。

 今思えば,私たち三姉妹の計算力は職場で強い武器となっています。多くの子供たちがそろばんを手に取り,体験し,楽しく学び,大人になったときに「そろばんを習っていてよかった」「暗算力を身につけてよかった」と思ってくれると本当にうれしく思います。珠算で身につけた力は,将来いろいろな職業で,きっと役に立つと思います。目をきらきらさせてそろばんを学ぶ全国の子供たちを応援しています。そろばんで夢や希望を弾き出してくださいね。

 最後になりましたが,全国の珠算関係者の益々のご発展とご活躍をお祈り申しあげます。

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