そろばんと歩んだ半生
そろばん生活
そろばんを始めたのは小学校1年生。手先を使うと脳によいという親の考えで,近くのそろばん塾に通っていました。当時は,クラスに5人はそろばん塾に通っている子がいて,放課後,一緒に塾に行き,ワイワイそろばんをやるのが楽しかった記憶があります。進級レベルは,少しだけ周りより早く,小学校6年生になる前に珠算は1級・暗算は段の練習をしていたと思います。
大きな転機は,親の仕事で滋賀県彦根市に転校したときです。家から近いそろばん塾を探して行ったところ「少し遠いけど,男の子が多い塾があるから,その塾をおススメする」と紹介され,入塾することになったのが伊部そろばん塾(伊部征子先生)でした。
伊部先生は,熱心な先生で普段の練習は週3日なのですが,大会の1か月前になると残りの3日も練習をしていました。つまり週6日,月曜から土曜まで毎日そろばんです。また,どうすれば上手になるのかを日々研究されておられ,乗算の両落としや見取算・伝票を暗算でする等,「こんな方法があるよ!」「この方法でやってみよう!」と,熱心に指導をしていただきました(辛くて自転車で泣いたことも多々)。
先生のご指導と私の成長のタイミングがうまく重なったのだと思います。
計算のスピードが速くなり,検定試験に合格,大会での点数がグングン伸び,中学生になる前には,珠算五段・暗算八段に合格し,凄くうれしかったし,楽しかったです。
中学生になると,通常のそろばん生活以外に,世界が広がる大きなイベントが2つありました。そろばん訪米使節団(第4回に参加)と全日本珠算選手権大会です。訪米使節団は,全国から30名が団員として選ばれてアメリカに行き,そろばんを通じて現地の学生と交流をするイベントです。当時,滋賀県から出る機会も少なかった私が,新しい友達との海外旅行,外国人との英語を通じた交流など,初めて尽くしの本当に刺激的な一週間でした。
また,全日本珠算選手権大会は各都道府県から選ばれた選手が,そろばん日本一を競う大会です。初めて参加したときの驚きは今でも忘れられません。大きな会場に300人から400人が集まり,今まで経験したことのない緊張感,そして何より私のレベルとは全く違う次元での競争が繰り広げられるのです。当時は開催場所が毎年変わり,北海道から沖縄まで行くことができて,本当にいろいろな経験をさせてもらったなと思います。
そろばんが助けてくれた事
今年で46歳になりますが,今までの人生において,大きな岐路で幾つかそろばんに助けられたことをお話ししたいと思います。
1つ目は,大学受験です。当時,国立大学を目指していたのですが,センター試験で失敗し,第一志望は絶望的になりました。これを救ってくれたのが,一芸入試です。私が入学した大阪市立大学(第一志望ではなかったのですが)は,センター試験の成績と自分の持つ一芸を記載した論文を試験項目とした募集がありました。論文にろばん訪米使節団や全日本珠算選手権大会出場等の経験談を書き,合格となったのです。
2つ目は,就職活動です。会社の採用面接は30分から1時間の時間内に,大学時代の学業やその他の活動,志望動機について自己PRをし,その内容と面接官からの質疑応答で合否が決まります。私は,そろばんから得た経験,その経験から社会に貢献できることを話したのですが,受ける質問は「そろばんでアメリカって凄いね。だから商社志望?」「何桁の計算ができるの?」など,そろばん中心の答えやすい質問が多く,非常に有利でした。
3つ目は,海外での仕事です。仕事柄,海外出張は100回以上,海外駐在は5年間(上海と台湾)しましたが,外国の方との会食のときに,欠かせないのが“そろばん”です。会食は外国語ですし,仕事の話や表面的な会話をするのはお互い面白くありません。そこで,そろばんの話をして,2桁×2桁を暗算で計算してみるのです。相手はキョトンとし興味津々です。その10分後には,私の暗算とiPhone(計算機)との勝負が始まります。アジアでは,その勝負に負けた方がお酒を飲まされたりするので,計算ミスをして,たくさん飲まされた苦い経験も多々ありますが,それでも宴会は盛り上がり,その後の人間関係も良好となり,新しい仕事に結びついたり,困難な仕事の解決に非常に大きな助けとなりました。
現在,習っている人への応援メッセージ
集中力や計算力の向上などそろばんのよいところはたくさんあると思います。今回はメッセージということで,違う視点で考えてみました。「できないことができるようになる。何桁,何問,何点と進歩や結果が非常に分かりやすい」です。皆さん,どうでしょうか?何をやっても上手になるのはうれしいですよね。勉強やスポーツと比べ,そろばんは自分の成長が見えやすく,自信に繋がることが魅力だと思います。辛くなったら,思い返してください。
また,私が現役時代にやっていたことをお話ししたいと思います。時間を計っているときは,常に隣の友達と競争していました。もし,そろばんの計算スピードが速い友達が隣にいた場合は,自分の2問と友達の3問を競争するのです。夜ご飯やTV,学校のことなど,余計なことを考えながらやってはダメですよ(笑)。是非やってみてください。絶対に上手になるよ!自分を信じて頑張って!!
最後に
このような光栄なる執筆の機会をいただき,本当にありがとうございました。こうして振り返ることができて,改めてそろばんに支えられたことを実感するとともに,温かく厳しくご指導いただいた先生方や珠算連盟の方々に対し,感謝の気持ちでいっぱいです。
この感謝の気持ちを忘れずに,今後,そろばんがますます発展することをお祈りするとともに,私自身もその発展に貢献できることがないか考え始めたいと思います