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YELL

VOL.33

私の人生を形作ったもの

東北大学工学研究科,流体科学研究所所属

小野寺悠祐 さん

筆者:写真右 左は恩師の若生修吾氏

1999年 宮城県仙台市生まれ
2018年 宮城県仙台第二高等学校卒業
2023年 東北大学工学部卒業
2023年 東北大学大学院工学研究科入学
2025年 旭化成株式会社入社予定

<珠算の実績>
全珠連検定 珠算四段・暗算六段
平成23年度 MIYAGIそろばん・あんざんチャンピオンシップ2011団体優勝・個人5位

私の人生を形作ったもの

自己紹介

 はじめまして。東北大学工学研究科,流体科学研究所所属の小野寺悠祐と申します。普段は二酸化炭素回収の研究,および吸収装置の開発に取り組んでいます。最近,頭の体操のためにきまぐれに通販で暗算の問題集を取り寄せ,時間を計って解いていました。数回分も解くと,あの頃と何ら遜色ないぐらいのスピードで点数を取ることができるようになりました。せっかくなので10年ぶりに検定試験を受けたところ,恩師の若生先生にお会いし,あの頃と変わらない元気な姿に喜びを覚えました。また,その場に居合わせた丹野先生にYELL執筆の機会をいただき,今回OBとしてのメッセージを書かせていただくことになりました。

そろばんとの出会い

 子供の頃の私は,周りより体が小さく背の順では,いつも一番前に並んでいたのを覚えています。運動では勝てず,特にこれといって秀でたものもなく,私は燃えることのない日々を送っていました。そんなときに出会ったのがそろばんです。当時8歳,同じく少年期に習っていた父に連れられ,そろばん教室に足を運びました。そこで私は自分よりも年下どころか幼稚園児でも段位を取得していることに驚かされました。これなら体格も関係なく,自分でも結果を残せるのではないかと考え,入塾を決断しました。ぱちぱちと響く音色が心地よく,珠を弾くのに私はのめり込んでいきました。母が迎えに来ても,「もう少しだけ!」と残って練習していた記憶があります。その甲斐あって,周りよりも入塾が遅かったものの,ぐんぐん成績を伸ばしていき,最終的には珠算四段,暗算六段を取得することができました。

そろばんが私に与えてくれたもの

 「人生を形作ったものは何か」と問われたら,私は間違いなくこう答えます。「そろばんです」と。つい数か月前まで就職活動に取り組んでいて,自分の人生を振り返り,自身を見つめなおす機会が多かったのですが,改めてそろばん,そしてそこで出会った方々には多くのものを与えてもらったと感じています。

 まず一つ目は,数学力です。計算に関して言えば,自身の研究における二酸化炭素の吸収率の計算や,食事会での割り勘など,日常で活きる場面は数えきれません。友人がスマートフォンを取り出して電卓機能で計算するよりも早く答えが出せるのは少し気持ちがよいです(笑)。そろばんによって鍛えられるのは計算力だけではありません。そろばんは珠を弾いて数字に変換するという行為であり,通常の計算手法とは異なり右脳をよく使うと言われています。右脳は創造性,芸術性,空間認識性を司る領域であり,ここを鍛えることにより,さまざまな効果が期待できます。元々私は算数が好きではありませんでしたが,そろばんを習い始めてからは計算問題や図形の問題を解くのが得意になりました。就職してからは化学プラントの設計開発に従事することになるのですが,ここで磨いた空間認識力が大いに役に立つと信じています。さらに,ここでの成功体験から勉強のモチベーションが高まったことで他の科目へも意欲的に取り組めるようになりました。私はじっと座っているのが嫌いで,ろくに机に向かわない子でしたが,集中して勉強に取り組む習慣をこの頃身につけることができました。そろばんに出合わなければ,おそらく私は理系を選ばなかったでしょうし,東北大学にも入学していなかったと思います。

 二つ目は継続力です。若生先生はよく,「1日サボれば3日前の実力に戻る」とおっしゃっていました。その言葉を聞いていたので,忙しいときでもせめて十数分は練習するようにしていました。お正月など,「この日ぐらいは休んでもいいや」と周りが考えそうな日でも練習を欠かしませんでした。この毎日の小さな積み重ねが,のちに大きな成果につながったのだと思います。また,継続することは練習を楽にすることでもあると考えています。休む期間が長くなると,再開するのが億劫になります。夏休み明けの学校も行くのが面倒ですよね(笑)。エアコンも部屋が暑くなる度に付けるより,付けっ放しにしていた方が電気代は安くなると言われています。「努力」をルーティン化することで効率的に上達できるのです。今そろばんを習われている方には,一日のどこかで,頭の中でそろばんを弾いてほしいなと思います。問題集が手元にないときは,車のナンバーなど身近な数字を使うのも一つの手ですね。

 三つ目は本気で取り組んだ経験です。好きでやっていたことではありましたが,順調に成績を伸ばせていたわけではありません。ときには何か月も昇段できず悔しい思いをしたこともあります。特に私は見取算を解くのが遅かったので,他の種目よりも多く問題を解くことや,自分の「くせ」を直すことで正答率を上げられるよう努めました。精神面に関しては,若生先生の励ましや,同じ教室の同級生に負けたくないという気持ちを燃やして練習しました。人間一人で努力し続けることは大変骨が折れます。中学生の頃,担任の先生が「受験は団体戦だ!」とおっしゃっていたのですが,当時の私は「個人戦に決まっているだろ…」と理解を放棄していました。しかし今なら分かります。周りの環境は本当に重要なのだと。そろばん教室で切磋琢磨できるライバルがいたから,私はがんばり続けられたのだと思います。そんな彼らと小学6年生のときに宮城県チャンピオンシップに出場し,見事団体戦1位を獲得,個人でも5位に入賞することができました。これは大きな自信になりましたし,ここで得られた目標の立て方や苦手なこととの向き合い方,大きな舞台に立つ経験は私の人生のかけがえのない財産です。

 成功,失敗に関わらず,何かに全力でぶつかったことのある人間というのは魅力的であると思います。東北大学には勉強はもちろん,スポーツや芸術に打ち込んできた人が数多くいます。そういった方々の話は聞いていて面白いですし,芯があるなと感じます。上手くいったことも,壁にぶつかったことも,若いうちほど後に大きく活きるでしょう。願わくば,後輩にはそろばんがそういうものであって欲しいな,と思います。

 改めて,執筆の機会をくださった若生先生,丹野先生に感謝申しあげます。また,そろばんに関わる全ての方々のご活躍,ご発展をお祈りしております。

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